「10代向け市場」の難しさ。

断片的には再三書いてることなんですが、機会もあったのでちょっとまとめてみました。


この冬、10代読者をターゲットにした注目シリーズの創刊が続いた。一つが筑摩書房の「ちくまプリマー新書」。そしてもう一つが理論社の「よりみちパン!セ」だ。前者は橋本治氏を企画主幹にすえ、テレビ等でもおなじみの名編集者・松田哲夫が自ら指揮を執る。ポップな装丁もあいまって非常に売れ行きがよいもようだ。後者は創刊というにはひっそりとスタートしたものの、重松清や、養老孟司リリー・フランキーという硬軟取り混ぜた意欲的な書き手をそろえ、じわじわとファンを伸ばしている。
両者とも大きめに組まれた活字に、厚手の紙を使用。文章も平易に徹しているので、どの本もすらすら読めて面白い。どの本も、中心ターゲットである10代だけでなく、大人も相当数購入しているようだ。


ただ、現在これらのシリーズを取り巻く最大の問題がある。書店に置き場が見当たらないのだ。この本は「児童書」なのか「文芸」なのか。「新書」の棚に置いては大人しか目に留めてもらえないだろう。読者層を考えるなら現在流行のライトノベルやコミックの付近に置くべきだが、趣があまりに違う。
知り合いの書店員に聞くと、「ある程度巻数がたまってきたらフェアでもやりますが・・・それまでは内容にあわせていろんな棚でバラバラに置くしかないですね」とのこと。事実、「よりみちパン!セ」で一番売れているだろう、みうらじゅん『正しい保健体育』は、それ単体でサブカル関係の棚に置かれていることが多い。某出版社に籍を置く私は「こういう本っていいですよね」と上司に言ってみたら、やはり「いいけど・・・シリーズにして、どこで売ってもらうの?」という反応だった。まだまだそういう状態だ。


いま、出版業界は「朝の読書運動」推進などを通して、読書教育に力を入れている。ハリーポッターのような、子供も大人も読める本のベストセラーも出た。さて、では次に10代の彼らが読むべき本は、書店のどこにあるのか。「児童書」と「一般書」の間をつなぐ本は必要だ。しかし、それはどこで探せばいいのか。これらのシリーズ創刊がきっかけとなって、本の面白さに気づき始めた読者に向けた入門+α的な売り場ができてくれば、読書人口の底上げ化にもつながってくるのではないかと思うのだが。