出版「村」から黙殺されるベストセラーたち。

以前本家のほうでも書いたとおり、『もっと、生きたい・・・』のことが気になって仕方がないのです。というわけでちょっとまとめてみました。




 出勤前に何げなく朝のニュース番組を見ていたら、『もっと、生きたい・・・』(Yoshi/スターツ出版)という本のCMが流れた。シリーズ270万部を突破した『Deep Love』著者の最新作である。書籍単体でテレビCMを打つというのは珍しい・・・と思っていたら、最後にこういうキャッチコピーが流れた。

「本を読まない人たちのベストセラー」

 たしかに、Yoshiという著者は書評界でまったく相手にされていない。ケータイサイトでの連載小説ということもあってか、急転直下で幾分強引気味なストーリー展開、ぶつ切りの文体など、その何もかもが新しすぎる。読書家の方々が眉をひそめるのもわからないではない。しかし、「読書離れが著しい」と言われる若者の間で、Yoshiの小説は大変な人気となっている。そのことは疑いようがない事実だ。

 何十万人という読者をつかんでいるが、出版ギョーカイ内ではどこか軽んじられる存在・・・そんな作家はたくさんいる。文芸評論家の斎藤美奈子氏が自著『趣味は読書。』で述べるとおり、そもそも「本を読む人」自体が、「人口の一割にも満たない」少数民族だ。さらにその中で無数の「村」が存在しており、村同士の交流は意外に少ない。

単行本の初版発行部数は大手出版社の文芸書でも数千部程度。5万部、10万部も出せれば、そのジャンルの中では十分「ベストセラー」と言われる。しかし、テレビだと、個人視聴率1%は約39万6000人に当たるという。メディア特性の違いとは言え、テレビに比べれば、出版界がはしゃぐ数字というのは誤差程度のものでしかない。

つい先日、実家の母親が上大岡トメ『キッパリ!』と日野原重明『生きかた上手』を「面白い本を見つけたわ」と買っていた。出版界にいると「何を今さら」な両書だが、逆にここまで広がって初めて「世間的にはベストセラー」ということなのだろう。

閉じこもりがちな出版「村」の評価がどうあれ、Yoshiは間違いなく垣根を超え、新たな土地を広げた。『もっと、生きたい・・・』で、さらなる開墾が行われることを期待したい。